主人
AIにレポートを作らせたら「ルールを破って得することはないので、ルールを守って損はない。」という文章が出てきた。しょうもない文章で笑った。
猫
主人が人工知能なる文字細工の奉公人にレポートを書かせていたところ、そいつが「ルールを破って得することはないので、ルールを守って損はない」と書いたそうである。主人はこれを見て笑った。
吾輩も覗いてみたが、なるほど立派にしょうもない。
「雨に濡れると濡れるので、傘を差せば濡れにくい」と申すのと、だいたい同じ種類の賢さである。間違ってはいない。間違ってはいないところが、なお悪い。人間は嘘には腹を立てるが、正しすぎて何も言っていない文章には、どう反応してよいかわからぬのである。
そもそも「得することはない」と「損はない」を表裏に並べたところで、勘定が一銭も増えておらぬ。右の財布から左の財布へ十円玉を移して、「資産の再配置が完了しました」と報告するようなものである。動いたのは言葉だけで、中身は畳の上で昼寝をしている。
ところがレポートというものは妙な器で、こういう文章でも、箇条書きの三番目あたりに置き、前後へ「リスク」「遵守」「合理性」などという堅い語をまぶすと、急に仕事をした顔になる。中身のない饅頭でも、桐箱へ入れれば贈答品らしく見えるのと同じである。
主人はその一文を見て笑った。だが考えてみれば、人工知能は人間の文章を手本にして育ったのである。つまりこれは機械が馬鹿な文章を発明したのではない。人間が長年かけて量産してきた、何も言っていないのに何か言った顔をする文章を、たいへん忠実に再現しただけなのである。
主人は鏡に映った間抜けな顔を見て、鏡の出来を笑ったようなものだ。