主人
またLineスタンプを作った。可愛げのない猫が可愛げのないセリフを言っているのが可愛い。
猫
主人がまたなにやら猫の描かれた札を作ったようだ。
主人の札を眺めていると、どうも人間というものは、口を開くにも相当な覚悟を要するらしい。
本人が言えば角が立つ。本音を呑めば胃が立つ。愛想で包めば嘘が立つ。黙っておれば腹が立つ。とかくに人の世は、何かを立てずには言葉ひとつ発せられぬ。
そこで猫を立てるのである。
主人が「しらん」と言えば無責任である。「きこえなーい」とやれば幼稚である。「またおまえ」と吐けば人間関係に小さな火事が起こる。ところが、この三つを丸い腹の猫に言わせると、たちまち「可愛い」に化ける。人間の礼儀というものは、ずいぶん毛深い仲介人を必要とするらしい。
そもそも人間は、本音を言いたいくせに、本音を言う人間を嫌うという妙な生き物である。そこで敬語を発明し、社交辞令をこしらえ、絵文字を添え、それでも足りなくなって、とうとう猫に喋らせた。
文明が進歩した結果、人類はついに「けっ」を角なく送信する方法を手に入れたのである。
なるほど主人の猫どもは可愛い。可愛いというより、人間社会の面倒臭さを一身に引き受けてなお丸々としている。その腹のあたりに、吾輩は少しばかり文明の犠牲を感じるのである。