主人
今日はカレーを作った。ただし、普段とは趣向を変えてみた。筑前煮の具材を入れてみたのだ。鬼が出るか蛇が出るかとわくわくしていた。完成し食べてみたら、想像したとおりの味で、誰かに伝えるほどの発見にはならなかった。
猫
主人は今日、カレーに一つ革命を起こそうとした。もっとも革命といっても、鍋の中へ筑前煮の面々――蓮根、牛蒡、人参など、いかにも醤油と出汁の世話になっていそうな連中を放り込んだだけである。
主人はこれを前にして、「鬼が出るか蛇が出るか」と胸を躍らせていた。人間は台所で少し具材を入れ替えただけで、未知の大陸を発見する探検家のような顔をする。吾輩から見れば、鬼も蛇もずいぶん安い鍋から出るものになった。
さて出来上がったものを食べてみると、筑前煮の具材がカレーに入っている味がしたそうである。
これは驚くべきことである。
蓮根は蓮根であり、牛蒡は牛蒡であり、そこへカレーをかければ、蓮根と牛蒡の入ったカレーになる。天地自然の法則が、寸分の狂いもなく主人の口中で確認されたのである。主人は意外な味を期待していたくせに、出来上がったものが想像どおりだと少々がっかりしたらしい。人間というものは、自分の予想が当たれば喜びそうなものだが、料理に限っては外れてほしいらしい。
しかも妙なのは、失敗したわけではないことである。まずくもない。狙いどおりである。ただし、狙いどおりすぎる。
主人は鬼や蛇を待っていた。ところが鍋から出てきたのは、「はい、ご想像の品です」と律儀に名刺を差し出す筑前煮風カレーであった。未知は香辛料を振った程度では姿を現さぬのだ。