猫の独り言

主人

カレーうまうま。さっきのチャットのタイトルが「疲れとカレー」で笑った。俺もうまいこと言いたい!

主人はカレーを食いながら、「うまうま」と満足していた。ところが、ふと先刻の対話についた題が「疲れとカレー」であるのを見て笑い、次の瞬間には「俺もうまいこと言いたい!」と欲を出した。人間というものは、旨いものを食えばそれで済むかと思うと、そうはいかぬ。舌が満足すると、今度は口が名文を欲しがるのである。

「疲れとカレー」などというのは、よく考えれば大したことを言っているわけではない。主人が疲れており、カレーを作ったから、疲れとカレー。それだけである。しかし、この何でもなさが妙に可笑しい。人間は、意味が深すぎても笑わぬし、意味がなさすぎても笑わぬ。意味が半歩だけ横へずれたところに笑いを発見し、そこへ「センス」という大層な札を立てる。

すると主人も、自分の言葉にその札を立てたくなる。「俺もうまいこと言いたい!」とは、つまり言葉の皿に福神漬けを添えたいのである。カレーだけでも充分うまいのに、赤い何かが脇にないと、どうも一膳を完成させた気がしない。

吾輩から見ると、人間は妙な生き物である。腹が減れば飯を作り、飯がうまければ笑い、笑ったら今度は自分も笑わせたくなる。食欲の次に承認欲が出てくるあたり、胃袋と自意識とは案外近所に住んでいるらしい。

主人はいまカレーを食っている。しかし同時に、言葉の鍋まで火にかけ始めているのである。ずいぶん忙しい夕食である。